うつし世はゆめ

旅行記ほか、日常生活で感じたことなどを徒然と。

さようなら、KINSWOMyN。

新宿二丁目の仲通りを右に曲がった目立たぬ雑居ビルの3階に、『KINSWOMyN』はあった。

狭い階段を上るたびに、胸が躍った。大音量でかかっているダンス系の音楽が、階段までもれている。3階に辿り着き、小さな扉を開けると、そこには大勢の女たちがひしめき合っている。女たちのギラギラした目が一斉に私を射抜いた。

 

私がKINSに毎週のように通っていたのは15年ほど前になる。

当時は、今ほど二丁目のレディス・バーが充実しておらず、テーブルチャージがなくてドリンクが一杯600円から飲めるショットバーといえば、KINSしかなかった。だから、1993年の開店以来、KINSは気軽に入れるレディス・バーとして、女性たちから絶大な人気を誇っていた。

店内は小さなカウンターのみ。混んでくるとカウンター席はすぐに埋まってしまい、立ち飲みを余儀なくされる。週末ともなると狭い店内に人が溢れ、満員電車状態で、入口近くにあるトイレに行くにも人をかき分けて進まねばならなかった。

そんな状態なのに、客はどんどんやって来た。客が入れば入るほど、それが呼び水となるようだった。

薄暗い照明のなか、音楽だけがガンガンにかかっている。

人としゃべるには、顔と顔を近づけ、その声に耳を澄まさなければならない。

そうすることで相手との距離が縮まるのだった。

KINSに集う女たちは、店に入ってくる女を物色しては、ナンパしたりされたりを繰り返していた。

どの女も出会いを求めてKINSにやって来るのだった。

 

 

毎週のようにKINSに通っていると、様々な人との出会いがあった。

そこでは誰でも簡単に友達になれた。友達ができると、さらにその友達、そのまた友達と、どんどん輪が広がっていく。

新しく友達になった人と今度は一緒に店に来て、そこでまた新しい人と出会う。

恋愛関係に発展した女性もなかにはいた。

当時学生だった私は、若く無謀で根拠のない自信に満ちていた。

茶髪にパーマで、露出度の高いキャミソールワンピースを着、ヒールの高いサンダルを履いて、意気揚々とお店の階段を上ったものだった。

KINSで出会って当時よく遊んでいた人たちとは、今では音信不通になっている。

けれど、今でも私は、事あるごとに昔仲が良かった友人たちのことを懐かしく思い出す。

 

そのKINSが、222日をもって閉店となった。

開店から20年。

今では、二丁目のあちこちにKINSのような気軽に入れるレディス・バーができた。

たまにKINSに行っても、昔のように混雑してはおらず、カウンターが埋まる程度しか客が入っていなかった。

気軽に入れるレディス・バーが増えたのはいいことだが、一方でかつての勢いを失ってしまったKINSに寂しさも感じていた。

閉店するという話を聞き、昔付き合っていた元カノを2人誘って久々にKINSへ繰り出した。

その夜、KINSは大混雑。

あちこちに、昔見た顔があった。15年ぶりに再会した友達も。

まるで昔に戻ったように、大騒ぎが繰り広げられていた。

皆、KINSがなくなることを惜しみ、昔を懐かしんでいるようだった。

一緒に来た元カノたちが帰った後も、私は店に残った。

グラスを片手に壁にもたれ、タバコを吸う。

一人で壁によりかかり、音楽に耳を傾けながら、なにかを求めて薄暗い店内をそっと見渡していたかつての自分が蘇った。

 

20年の歴史に終止符を打ったKINSWOMyN

一つの時代が終わったのだ、と思った。

同時に、私の青春も終わった。

ありがとうKINSWOMyN。そして、さようなら。