うつし世はゆめ

旅行記ほか、日常生活で感じたことなどを徒然と。

所属について

私の今後の身の振り方について、今お世話になっている会社の人と打ち合わせをした。その会社には今、フリーの立場で関わらせていただいているのだが、ありがたいことに社員にならないか、というお誘いを受けたのだ。当たり前の話だが、フリーの立場よりも社員という立場のほうがいろいろな意味で安定する。フリーでいるということは、なにかがあったらいつ切られてもおかしくないということ。経済的にも社員になったほうが安定する。そう考えると、こんなご時世に社員にしていただける、というのはありがたい話だし、一瞬そこに飛びつきそうになったけれど、今日会社の人と話してみて、社員になるということ、会社に所属するということはどういうことなのか?と改めて考えてしまった。

話のなかで、その人は今後会社でやりたいことを熱く語っていた。それが本当にできるかどうかは別として、やはり社員でいるということは、どうしたらもっとこの会社がよくなるのか?ということを第一に考える、ということだ。もちろん世の中には給料だけもらってあとは適当に仕事してればいい……という考え方の人も多いかもしれない。だけどそんな仕事のやり方を続けていると、「この人は会社に利益をもたらしていない」と見なされ、会社の業績が悪くなったらリストラの対象にされる。いくら今は安泰だとしても、その状態がずっと続くわけではない。自分は変わりたくなくても、そんなことはお構いなしに周りの環境はどんどん変わっていくのだから。

ある会社に所属するということは、安定と引き換えに、ある種の魂を売るということかもしれない。そのためには、その仕事が好きであったり、あるいはそこで働いている人が好きであったり、あるいは待遇がよかったり、というなにかしらのモチベーションが必要だ。それと、会社に入るということは、前提として「この会社でずっとやっていく」という覚悟を持つ必要がある。少なくとも入社前の段階では。

つまり社員になるということは、働き方も仕事にとられる時間も給料も、フリーの立場とはまるで変わる、ということだ。自分の利益ではなく、全体の利益を考える。そのためにできることを企画する。それが実を結べば、大きな達成感につながる。

フリーの立場はもっとわかりやすい。時給いくらで仕事をしたり、仕事をとってくればそれが自分の収入に直結したりする。全体の利益とか会社の経営とかまで立ち入って考える必要はない。もちろん全体の利益があってこそ仕事をいただいているわけだから、それをまったく考えないわけにはいかないが、仮にその会社の仕事がダメになったとしても、ほかの会社の仕事もやろうと思えばできるわけだ。

 

そういうことを踏まえて今の私の状況を考えると、はたして本当にそこの社員になるのが良いことなのだろうか?と思えてきた。まず前提として、私はこの会社にずっと何年もいる自分、というのをイメージできない。それに今やっている仕事が特別好きというわけではない。具体的な待遇については聞いていないが、なんとなくそれほど良い条件ではなさそうだし、残業代もつかない。けれど社員になれば、当然仕事は増えるし、残業も増える。それを負うかわりに、社会的立場の安定と収入の増加、というものを得る。このくらいの仕事量があるとして、はたしてそれに見合う待遇が見込めるのか?あるいは、待遇は二の次だと思えるほど、本当にこの仕事が好きでやりたいのか?社員になるということは、そういう擦り合わせの連続なのではないか。

 

以前勤めていた会社で、ある先輩が辞める際に、「私を辞めさせたくないんだったら、会社はそれだけの給料を払うべき」と言っていたことをたまに思い出す。彼女は吐き捨てるように言ったものだ。

「人はおカネで動くんだよ」と。

今日話した会社の人も、もしかしたらおカネというものがあるからこそその会社のために尽くしているのかもしれない。私もまた、待遇がよかったら、こんなことであれこれ悩まず、多少仕事が増えようと、時間がとられようと、あっさり社員というものになるのかもしれない。「人はおカネで動く」。この言葉が染み付いてしまっている。身も蓋もないかもしれないけど、確かにそれは真実だと思うからだ。

「おカネには全然ならないけど、この仕事が好きなのでやってます!」という人もいる。私にもそういう頃があった。だけどそれはあくまで若い頃の話。若い頃だったら、たとえおカネにならなくても、仕事をやらせてもらえるだけでキャリアになる。仕事というものはとにかく経験を積まないとどうしようもないのだ。けれど、ある程度経験を積むと、その先を見るようになる。自分が仕事というものに対してなにを重視するか。それをきちんと見極めることが大切だ。

 

……そんなわけで、社員になるかどうかという結論は先延ばしにしてもらった。私が危惧していたのは、決断を先延ばしにすることでこの話が反故にされてしまうのではないか、ということ。だけど今日話した感じでは、そういうことはなさそうだ。その人も言ってくれた。「仕事に対する考え方や、どういう働き方が自分にとってベストなのかということは人それぞれ。だから焦って結論を出さないで、ゆっくり考えてほしい」と。