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うつし世はゆめ

旅行記ほか、日常生活で感じたことなどを徒然と。

転職

3月に転職してから一ヶ月が経った。

仕事は忙しいが、充実している。

残業はほとんどないので、プライベートを大切にできる。

働きやすい環境だし、周りの人も皆親切だ。

雇用形態は派遣だけれども、良いところに就職できた、と思う。

前の会社とは天と地ほども違う。

 

前の会社はいわゆるブラック企業で、仕事量が多くて毎日22~23時まで残業していた上、休日も出勤していた。

上司は30手前の気の強い女だった。

なにかというと「私は上司ですよ」みたいな言い方をするような人だった。

明らかに効率の悪いことをさせ、反論するとその言葉尻を捉えて責め、相手を黙らせる。

会社のなかで決められている仕事のやり方みたいなのがあり、それが変にお役所的で非効率的だった。

彼女はそれに則って部下に指示していただけだ。

だけど、私が仕事の進め方などについて提案すると、それが気に食わないのか、重箱の隅をつつくようなことを言って責め立ててくる。

次第に言い合うことがストレスになり、黙って言われたことをやるようになった。

そしてどんどん残業が増えていった。

残業代は出ない。裁量労働制だからだ。労働法には抵触していない。

しかし、一ヶ月の時間外労働が80時間以上になり、三六協定に引っ掛かった。

総務部から、「産業医による面談を受けてもいい」という案内がきた。

それは会社が従業員に対して行わないといけない義務なのだろう。

産業医の面談を受けてください」ではなく「受けてもいい」って、なんだ。

会社は本当は、従業員に面談なんて受けてほしくないのだ。ただなにも言わずに働いてほしいのだ。

面談は必ずしも産業医でなくてもいいということだったので、私は通院していたメンタルクリニックへ行った。

激務や上司のパワハラによるストレスということで、時間外労働を制限する診断書を書いてもらって会社に提出した。

そして、定時で帰れるぐらいに仕事量を調整してもらった。補佐的な仕事に回ったのだ。

三ヶ月ほど時間外労働を制限してもらい、その後復帰した。

復帰しても問題ないという医者の診断書も提出した。

また忙しい日々が戻ってくるかと思ったけれど、そうはならなかった。

逆に、一切仕事を振られなくなったのだ。

上司に「手が空いているのですが、なにか仕事はありますか」と言うと、「資料の本を読んでいてください」と言われる。

もちろん本を読むなんてことが仕事であるはずがない。

それはいわゆる「肩叩き」だった。

会社は、一度体調を崩した私を切ろうとしていたのだ。

でも、会社がそうした理由で従業員を解雇することはできない。

なぜなら私は医者の診断書では「就業可能」だからだ。

だから、仕事を振らないことによって、自主的に退職させようとしていたのだと思う。

私はそのことがわかっていたから、自分からは辞めなかった。

なにも仕事がない日々が何ヶ月も続いた。

朝は定時に出社し、パソコンを起動させる。

しかし、仕事はなにもない。

ひたすら「なにかをやっているふり」をする。

実際には一日中ネットでどうでもいい記事を読んだりしていた。

やたらとトイレに立ったりタバコ休憩に行ったりした。

毎朝、その日一日をどうやってやり過ごすかを考える。

私はよそでライターの仕事もしていたので、その仕事があるときは「今日は会社でこの原稿を書こう」と決める。

ライターの仕事がないときは、「今日はこれに関するブログを書こう」「今日はこのサイトのこの記事をまとめて読もう」「今日はこのことについて調べよう」などと、自分なりにその日一日やることを無理矢理決める。

それはどうでもいいことだけど、とにかくそれをやるために会社に行くんだと自分に言い聞かせ、毎日通勤した。

周りの人も、私が明らかに「干されている」状態であることはわかっていたのだろう。

誰も私に近寄ってはこなかった。皆、自分を守ることに必死なのだ。変に私を気遣ったりしたら、自分に火の粉が降ってくるかもしれないのだから。

私は毎日、朝出社したとき「おはようございます」、お昼に出るとき「お昼行ってきます」、戻ったとき「戻りました」、そして退社するとき「お先に失礼します」と、それだけしか言葉を発しなかった。

誰とも話さず、仕事もなく、ただ座ってひたすらどうでもいいサイトを見たりしているだけ。

周りの人は皆忙しそうにしている。

自分はなぜここにいるのだろう……

一日一日が本当に長かった。

会社を出た後は、映画や芝居を観に行ったり飲みに行ったりヨガのレッスンに行ったりした。

そうやって毎晩予定を入れないと、朝出社できない気がした。

 

従業員になにも仕事をさせずに、毎月給料を払う。なんて馬鹿な会社だろうか。

会社にとっては明らかに損失だ。

私にとっては、それは復讐だったのかもしれない。

最初の三ヶ月は激務、その後の三ヶ月は時間外労働制限、そしてその後半年間はなにも仕事を与えられないまま、一年の契約が満了となった。

会社の都合で更新がされなかったので、失業保険はすぐに下りた。

そして退職後一ヶ月で今の会社に就職が決まった。

まさかこんな短期間に決まるなんて思ってもみなかった。

失業保険の期間はまだまだ残っていたので、私はそれなりの額の再就職手当を手にした。

 

一年前、激務と上司のパワハラに苦しんでいたことが嘘みたいに、今は毎日が充実している。

やるべき仕事があること、会社のなかで役割があること、自分がいないと回らない仕事があって、ほかの人に必要とされること。

それは普通のことなのかもしれないが、素晴らしいことだと思う。

会社を出ると、一日働いた、という心地よい疲れと満足感に包まれる。

そして自然と気持ちをオフに切り替え、家に帰るのだ。