うつし世はゆめ

旅行記ほか、日常生活で感じたことなどを徒然と。

直島~豊島~高松~大歩危~高知の旅②

2月7日(土)2日目

直島~豊島~高松

 

この日は、ベネッセハウスの家プロジェクトツアーに申し込んでいた。

その集合時間に合わせてホテルを出る必要があったため、8時すぎころに朝食をとった。

朝食はベネッセハウスのテラスレストラン。ビュッフェだった。

まあおいしかったけど、ここも高い。2600円。まあ、ベネッセハウスの標準的な値段なのだろう。

レストランへ行く通路では様々な作品が展示されていた。外にもいろいろな作品があった。もっと時間があればゆっくり回ることもできたのだが。次に来る機会があったら、もっと時間をとって、のんびり過ごしたいものだ。

 

急いでホテルをチェックアウトし、シャトルバスで本村・農協前へ。

行ってみると、ツアーに申し込んだのは私一人だけだった。

よく確認しなかったのだが、ツアーだと1000円余計にかかるようだ。

私はベネッセハウス宿泊客へのサービスかと思っていた。

1人でゆっくり回ることもできたのだ。

しかし、このツアーの担当者の男性はいい人で、丁寧に説明してくれたので、結果的にはよかった。

家プロジェクトは、本村地区に残る古い家屋や神社を改修し、空間そのものを作品化するアートプロジェクトだ。

特にジェームズ・タレルの「南寺」が印象に残った。

かつて実在していたお寺を改修したもの。

中に入ると真っ暗で、手探りで前へ進む。

ベンチがあり、そこに座ってしばらく暗闇に身を任せていると・・・前方にうっすらと横長のスクリーンが見えてくる。

実はそれは最初からあったものなのだが、暗闇に目が慣れないと見えないようになっているのだ。

ジェームズ・タレルのほかの作品も観たくなった。

新潟に「光の館」という、ジェームズ・タレルが手がけた宿泊施設があるという。いつか行ってみたい。

 

家プロジェクト鑑賞後、シャトルバスで宮浦港へ。フェリーに乗り、家浦港(豊島)へ。

豊島もまたシャトルバスが1時間に1~2本程度しかない。

家浦港に着いたはいいものの、シャトルバスが出るまで1時間近くもある。

そこで、家浦港近くにある「イル ヴェント」というカフェへ。

「食とアート」がテーマのカフェで、建物自体がトビアス・レーベルガーの「あなたを愛するものは、あなたを泣かせもする」という作品になっている。

室内は、1階がテーブルから椅子まですべてストライプ柄。2階へ行くとすべてが水玉柄だ。

空間自体が作品なので、そのなかにいると自分も作品の一部になったかのような不思議な感じ。

私は2階に座ったのだが、空間が水玉模様にとけていくような、奇妙な感覚を覚えた。

 

バスに乗って、豊島美術館へ。

バス停で降りると、しばらく歩くことになる。

歩いていると、なだらかな棚田が見渡せる。なるほど、これを見せるために、バス停から離れたところに美術館があるのか。すでにもう、作品のなかに入っているのだ。

豊島美術館は、建築家の西沢立衛とアーティストの内藤礼とのコラボレーションによる美術館。水滴をイメージした建物で、柱を一本も使っていない。

入る前に靴を脱ぎ、室内履きに履き変えて中へ。

巨大な水滴のようなフォルムで、床はコンクリート、天井が大きく開いており、そこから自然の光や音、風が入ってくる。

床のいたるところから水が湧き出、無数の水滴が床を滑り、みるみるうちに「泉」になる。

「母型」という作品だ。

広い空間のなか、水滴が床を滑る音、風が鳴らす音、それしか聞こえない。

自然の光をたっぷり吸いこみ、自然の音に耳を傾け、そして足元の水滴が滑る様を見ているだけで、ゆっくりと時間が過ぎてゆく・・・。

いくらいても飽きることがない。

これが「作品」なのか・・・。

地中美術館もそうだが、美術館に展示されている作品というよりは、体感する作品、という感じ。島の自然そのものが作品に取り込まれているのだ。

しばらく作品を堪能し、外へ出た。

順路は、棚田を見渡せるようになっている。

歩いて行くと、ショップとカフェに行きあった。つまり、作品は「母型」のみなのだ。

美術館の次には「心臓音のアーカイブ」に行こうと思っていたのだが、そこへ行くシャトルバスの時間までにはだいぶ間がある。

さすがにそれまで美術館で時間をつぶすというわけにもいかない。

マップを見ていたら、ふと、「もしかして、歩いていけるのでは?」という考えが浮かんだ。

時間もあるし、天気もいいし、気持ちがいいし、道もわかりやすいし、歩いて行くことにした。

 

30分ほど歩き、「心臓音のアーカイブ」に辿り着いた。

海沿いにひっそりとある小さな小さな美術館。

そこには、世界中の人々の心臓の音が集まっている。

「ハートルーム」では、ランダムに様々な人の心臓の音が鳴り響く。薄暗い部屋のなか、心臓の音に合わせてランプが点滅する。

様々な心臓の音がある。低く静かな音。高く激しい音。小さく安定している音。緊張しているかのように高鳴っている音。

「リスニングルーム」では、パソコンで検索して世界中の人の心臓の音をヘッドホンで聞くことができる。

心臓音のアーカイブは、世界中にあるらしい。

ここ豊島でも、自分の心臓の音を録音し、アーカイブとして残すことができる。

私も自分の心臓の音を録音した。

録音ルームにはパソコンが一台あり、録音する手順の説明がある。

聴診器のようなマイクを心臓に直にあて、録音する。

録音した自分の心臓の音を、「ハートルーム」で聴くことができる。

ドクン、ドクン、と、ダイナミックな音が鳴り響く。

私の心臓の音は、ほかの人の音に比べてかなり大きく、速かった。まるで子どもの心臓のように。録音したときに緊張していたからかもしれないが。

自分の心臓の音を大音響で聴くというのは不思議な感覚。ああ、生きているんだな、と思った。いや、生きないといけないんだな、と。だってこんなに激しく心臓が鳴り響いているんだから。生き続けないといけないんだ。

そして、世界中で生きている誰もが、ひそかに心臓の音を鳴らせ、生きている。

そのことが熱く胸に迫って来て、ただもう圧倒された。

この瀬戸内海の外れの島の、海辺にある小さな小さな美術館。ここには、世界中から心臓の音を聴きに来る人がいるという。

いつかまた豊島に行くことがあったら、ぜひまたこの美術館へ来て、自分の心臓の音を聴いてみたい(リスニングルームのパソコンで、アーカイブを検索することができるのだ)。

自分の心臓の音は、その場でCDにして渡される。

後日家へ帰ってから聴いてみたら、やはり相当大きく、速い音だ。

私はこんなに激しい心臓の音をしているのか。予想外だ・・・。

もしかしたら、生きようとする力が強いのかもしれない。などと思った。

 

またシャトルバスに乗り、家浦港へ。そこから出る「豊島フェリー」で、高松へ渡るのだ。

フェリーが出るまでやはり時間が空いたので、港の目の前にあるカフェで瓶ビールと焼きそば。

そしてフェリーに乗り、高松へ。

この日は高松駅近くのビジネスホテルへ泊まった。

せっかく高松へ来たのだからと、ネットで調べて駅近くのさぬきうどんの店へ。

しかし、さぬきうどんの店の多くは、朝から15時くらいまでしかやっていない上、ガイドブックに出ているような有名店は、車でしか行けないような遠いところにしかない・・・。

でも、私が行った店も、そこそこおいしかった。時間が遅かったのでもう釜揚げはなく、かけうどんだったが・・・。

 

泊まったビジネスホテルは、シンプルで綺麗だった。これで5000円。安い。

近くにコンビニがあったので、ビールやらハイボールやら焼酎やらを買いこみ、次の日の計画を立てながら、ゆっくりと飲む。

酔いが回ってきて、早い時刻に寝た。